いつ心外膜アプローチにすすむか?

 米国では心室頻拍のアブレーションを専門に行っている施設・術者間では心外膜アプローチが一般的になってきている。
たとえるなら、心房頻拍の症例で右房でうまくいかないなら、心房中隔穿刺して左房をチェックするような雰囲気だ。
 といっても、心外膜アプローチにはそれなりのリスクが伴うので、いつ心外膜アプローチに考慮するかを考えてみた1


1. 患者背景
 非虚血性心筋症、不整脈源性右室心筋症では心外膜側に不整脈器質が存在することが多い。そのため心外膜アプローチを積極的に行っている施設(ブリガム・ペンシルバニアなど)では、心内膜のマッピングに先駆けて、心外膜アプローチをまず行うことが多いようだ。左室心内膜のマッピングはへパリンによる抗凝固が必要なため、抗凝固後の心外膜穿刺に伴う出血の増悪(右室穿刺による)の合併症を避けるために、まず心外膜アクセスを確保する必要がある。
2.12誘導心電図
 患者の心室頻拍が12誘導心電図で確認されている場合には、その波形から心内膜側、心外膜側起源かの鑑別が可能である2。いくつかの鑑別点が挙げられている。当然、心外膜側起源が推測される場合には心外膜アプローチをまず行う。
3.心内膜アプローチ不成功例
 患者背景・12誘導心電図では特に心外膜側起源が明らかではないが、心内膜側のマッピングでScarがない場合やEntrainmentあるいはPacemappingで心内膜からのアブレーションに適さない場合(回路が心内膜側にないと推測される場合)には、心外膜アプローチへ進む。へパリンで抗凝固を行っている場合にはプロタミンで拮抗した後、心外膜アプローチを行う。後日、日を改めて、心外膜アプローチを予定する場合もある。


 スタンフォード大学では基本的には心内膜をマッピングした後、日を改めて心外膜アプローチを行うことが多い。心内膜からのアブレーションや、アブレーション後の薬剤の追加により、心室頻拍がコントロールされる場合もあるので、別々に分けて行うのはそんなに悪いことではないと思っている。たくさんやっている施設ではなんで別々にやるの?って思うのかもしれないけれど。


 いずれにせよ、心室頻拍のアブレーションにおいて心外膜アプローチは身につけておくべきテクニックになってきているように思う。
日本ではあまりやっていない手技なので、どこで習得するか?あるいはどのように行うかについてはこれから考えていきたいと思う。


参考文献
1. Tedrow U, et al. Strategies for epicardial mapping and ablation of ventricular tachycardia. J Cardiovasc Electrophysiol. 2009;20:710-713
2. Berruezo A, et al. Electrocardiographic recognition of the epicardial origin of ventricular
tachycardias. Circulation. 2004;109:1842–1847.

右側WPW症例におけるV1誘導での陽性デルタ波の意味。

 ちょっと前にフェローに心電図を見せられて、副伝導路の部位診断を聞かれた。I・IIが陽性、IIIがフラット、V1誘導でrSだったので、右室自由壁と答えた。

彼はI、V1のデルタ波が陽性なので、左室中隔起源だと思っていたようだ。

 日本では(井上の分類)で、V1がRなら左側(Type A)、rSなら右側(Type B)、QSなら中隔(Type C)なので即答で右側なのだが、日本以外では左側(Type A)か右側(Type B)しかないのを思い出した。彼にType B WPW症例のV1のデルタ波陽性の理由を説明しようとしたが、とっさにうまく説明できなかったので、後から少し考えてみた。
 正常心電図(健常人)におけるV1誘導のrSのr波の原因は心室興奮の初期において、興奮波が心室中隔を左室側から右室側へと伝導するためにおこると説明されている。Type A(左側WPW症例)の陽性デルタ波は、僧帽弁輪に付着する副伝導路を介し左室が右室に先がけて興奮するため、興奮波が左室(後方)から右室(前方:胸壁方向)に向けて進むことに起因する(左室が右室よりも早く興奮する。つまり相対的に右室が遅くなる。そのため右脚ブロック型の心電図波形となる)。また、右室の興奮が左室に先行すると右室(前方)から左室(後方)に興奮波が進むため、V1誘導では陰性のQRS波を呈する(左脚ブロック型)。これが彼が左室中隔起源と思った理由だ。
 しかしながら下図を見てもらえればわかるのだが、三尖弁輪は右室の後方に位置する。そのため右側WPW症例では三尖弁輪にある副伝導路を通った興奮波は右室基部(後方)から心尖部(前方:胸壁方向)と伝播し、デルタ波rを形成する。その後、興奮波は右室から左室へと伝播し、S波を形成する。少し考えてみればすぐわかることなのだが、急に振られるととっさに説明できなかった。


 さらに思ったこと。Type CのWPW症例(中隔)ではV1誘導でQSを呈するのは三尖弁輪に付着する副伝導路が心室中隔を右室側から左室側へと興奮させるためと考えていたのだが、中隔であれば僧帽弁輪に付着してもいいはずだ。では僧帽弁輪中隔側に付着する副伝導路の場合だと、12誘導心電図はどうなるのだろうか?実際には左側前中隔は大動脈弁・僧帽弁輪間の線維組織が占めているため心筋がなく、副伝導路が存在することは稀である(いくつかの症例報告はある)。Haghjooらが120例の中隔起源副伝導路の心電図をまとめているが、前中隔(12例)、中中隔(8例)については右側・左側の区別をしていない。前中隔についてはV1陽性75%、陰性25%、中中隔では全例V1陰性となっている。後中隔(86例)に関しては右側・左側で分別してあり、右側後中隔(60例)はV1陽性36%、陰性38%、二峰性26%。左側後中隔(19例)ではV1陽性50%、陰性28%、二峰性22%となっている。左側起源の場合だとやはりV1陽性になる率が高くなるのだろう。