薬剤抵抗性のBrugada症候群に対するRVOT 心外膜アプローチ

興味深い論文/発表があったので

Prevention of ventricular fibrillation episodes in Brugada syndrome by catheter ablation over the anterior right ventricular outflow tract epicardium.
Nademanee K, Veerakul G, Chandanamattha P, Chaothawee L, Ariyachaipanich A, Jirasirirojanakorn K, Likittanasombat K, Bhuripanyo K, Ngarmukos T.
Circulation. 2011 Mar 29;123(12):1270-9. Epub 2011 Mar 14.

薬剤抵抗性のBrugada症候群に対してEpicardial approachを用いて、Epicardial RVOTのmappingをおこない 、fractionated potentialを指標にablationを行った研究。この内容はSan Franciscoで行われたHRS2011でも発表された。
 症候性(実際にVF episodesがある)のBrugada症候群に対する治療はICDの植込みであるが、VF予防のために有用な薬剤は少なく、薬剤抵抗性でVF storm/ICD頻回作動を呈する症例が存在する。Brugada症候群のVF発生メカニズムについてはよくわかっておらず、以前RVOT(Endocardial mapping)でfractionated potentials/LPsを認めるとする論文or発表があったが、治療にまで踏み込んだのは今回が初めて。
 自分はrepolarization説を取っていたので、Brugada症候群に対するアブレーション治療には否定的だったが、この論文により興味がでてきた。Brugada症候群の心電図変化、VF発生メカニズム、ARVCとの不整脈基質の違いについても今後、研究が進んでいくのだろう。
 HRSで会った、日本のEP doctor達もこの発表/論文に興味を持ったようだった。日本で治療/研究できるように準備しておこうと思う。

カテーテル操作

 カテーテルの操作は進める、引く、まわす(クロックワイズ:CW、カウンタークロックワイズ:CCW)とそれにデフレクタブル・カテーテルだと曲げる・伸ばす(bidirectionalだと両方向)の協調運動である。心臓の3次元構造を想定して、どのような操作によりカテーテルがどのように動くかを予想しながら動かす訳だが、そこに術者の習熟度合い、センスが問われる。特に習熟度合いはいくら症例をこなしてきても常にby chance的にカテーテルを動かしてきたのではだめで、カテーテルを動かす際には、動かしたい方向を特定し、いかに正しくトレースできるかをフィードバックを得ながら動かす必要がある。性格にトレースできなかった場合は何が悪かったのかを常に考える。カテーテルに慣れるまでは操作に問題があることが多いが、ある程度カテーテルを正確にコントロールできるようになり、自信をもってカテーテルを動かせるようになれば、透視では見えない心臓構造が見えてくる。
 初心者にとってカテーテルを進める、引く操作に比べ、まわす操作にはひと呼吸考える時間が必要なようだ。どちらにまわすかは行きたい方向にまわすのが基本だが、例外もある。弁や乳頭筋、中隔などがあり、カテーテルをまわす障害がある場合には自由にカテーテルが動く反対方向からまわしてきたほうがいいこともある。

  • CS:一旦、右室にカテーテルを挿入し、CWに回しながらCSに挿入する。
  • Halo:
    1. CS3時くらいまでHaloカテーテル先端を進めたうえで、CCWにトルクをかけながらカテーテルを進め、ループをつくる。カテーテルが抜けそうであればCWで調節する(CCWでカテーテルがCSから抜ける、CWでCSに入る)。
    2. カテーテルを三尖弁自由壁を沿わせながらループを作り、CSに挿入する。CS挿入の際にはカテーテルを曲げてカテーテル先端を若干浮かすことが必要。CCWで先端は心室側に、CWで心房側に移動する。(ループはCCWで心房側に、CWで心室側に移動する。)先端が心房中隔にスタックする場合にはCWで一回転させて先端の固定を解き、弁輪に持ってくる。
  • RVOT:RVOT下部からCWにまわしながらカテーテルをRVOTに上げる。RVOTではCWで自由壁側、CCWで中隔側に。
  • 経大動脈弁アプローチ(ループの作り方):下行大動脈(左鎖骨窩動脈より遠位)でカテーテルを曲げると同時にCWにまわしながら進める。

CW、CCWどちらでもいい場合にはCWにまわすことが多い。

質問・コメント大歓迎です。

プログラム刺激:上室性不整脈

上室性不整脈のEPSに必要な手技。

  • 心室刺激
    • 心室高頻度刺激
      • VA伝導の有無(AT vs AVNRT,AVT)
      • VA伝導時間(AVN vs AP)
      • retrograde atrial activation sequence (concentric vs eccentric)
    • 心室プログラム刺激
      • VA伝導時間(AVN vs AP)
      • 逆行性心房興奮のsequenceの様式、変化 (concentric vs eccentric)
      • VERP
    • 不整脈の誘発
  • 心房刺激
    • 心房高頻度刺激
      • HV間隔(AVRT)
      • delta wave (AVRT)
      • AV Wenckebach, 2:1 block
    • 心房プログラム刺激
      • AVN dual pathway(AVNRT)
      • AVN ERP, AERP
  • CS刺激
  • Para-Hisian pacing(AVRT)
  • 頻拍中
    • atrial activation sequence(AT、AVRT)
    • HA interval(AVNRT)
    • VA linking(AT vs AVNRT,AVRT)
    • Coumel's law(AVRT)
    • RV scan(AVRT)
    • entrainment from RV(AT,AVNRT,AVRT)
    • 頻拍の停止様式(AT vs AVNRT,AVRT)

日常のEPSですべての手技をカバーするように努力する。多くの症例では診断は容易であるが、難解な症例に備え、すべての手技を試みて、診断の精度を高める必要がある。

設定

  EPS前に記録電位を確認する。

  • 12誘導心電図は以前の心電図と比較する。電極のつけ間違い、胸部誘導の位置のずれは正確なマッピングにとって致命的である。
  • 心内心電図の電位を確認する。電位の興奮順序より電極ピンの刺し間違いがないかを確認する。電極のフィルタリング設定を確認する。

His束カテーテル

 上室性頻脈のEPS/ablationにはHis束カテーテルは欠かすことができない。EPS開始前にしっかりとしたHis束電位を記録できるようにカテーテルを留置する。中隔副伝導路の症例ではPara-Hisian pacingが実施できるように若干心室側に留置するが、心房頻拍の症例では心房電位が記録できるように心房側に留置する。ほとんどの症例で4極Fixedカテーテルで明瞭なHis束電位が記録できるが、記録できない場合には間隔の詰まった多極(10極)デフレクタブル・カテーテルを用いる。
 His束電位が記録できる部位は三尖弁輪上中隔心室側であり、RAOでみてRVカテーテルのカーブの頂点付近となる。カテーテルを一旦、心室側に挿入し、クロックワイズにひねりながら中隔に沿わせ、引いてくるとよい。EPSの途中でカテーテルがずれ、His束電位が記録できなくなった場合には、位置を調整する。

RA留置

 RAのカテーテルは右心耳に留置するとカテーテルが安定して良い。また、HisとCSと合わせて、左右心房全体の興奮順序を確認しやすい。Sinus node近傍にカテーテルを留置した場合、固定が安定しないことが多く、また、三尖弁輪より離れているため、右側副伝導路からの逆行伝導をみおとしやすくなる。やや後中隔に近いこともあり、心房興奮伝播の鑑別には不向きである。
 留置方法:右心房に留置したカテーテルはAPで正面を向く。RAO(やや前方)、LAO(自由壁方向)で確認する。

CSへの挿入

 上室性不整脈のEPS/ablationの際にはカテーテルを冠静脈洞(CS)に留置することが多い。CSカテーテルにより左房僧帽弁輪の電位が記録でき、RA,Hisに留置したカテーテルから記録される電位と合わせて、心房のactivation sequenceを把握するのに有用である。特に左側副伝導路の症例では診断、アブレーションの位置決定に必須である。
 CSカテーテルは内頚静脈あるいは大腿静脈からのアプローチをとるが、内頚静脈からのアプローチのほうが容易である。大腿静脈からのアプローチではデフレクタブル・カテーテルを用いる。
 内頚静脈アプローチ:RAOにて房室間溝の位置(心臓のシルエットで心室基部の白く抜ける部分)を確認する。CSカテーテルをまず右室に挿入する。右室に挿入したカテーテルをカウンタークロックワイズにひねり、中隔に沿わす(LAOで中隔に沿っていることを確認する)。カウンタークロックワイズに軽くトルクをかけたまま、RAOでゆっくりと右房側に引いてくる。房室間溝の位置でカテーテル先端がCSに落ち込むので、ややクロックワイズにもどしトルクを解放し、LAOを見ながら心臓のシルエットに沿って、ゆっくりと進める。
 大腿静脈アプローチ:RAOにて房室間溝の位置を確認する。CSカテーテルをまず右室に挿入する。右室内でカテーテルを曲げ、クロックワイズにひねり、中隔下部に沿わす(LAOで中隔に沿っていることを確認する)。クロックワイズに軽くトルクをかけたまま、RAOでゆっくりと右房側に引いてくる(slow pathwayアブレーションのマッピングと同様)。房室間溝の位置でカテーテル先端がCSに落ち込むので、ややカウンタークロックワイズにもどしトルクを解放し、LAOを見ながら心臓のシルエットに沿って、ゆっくりと進める。カテーテルが下を向いて進みにくいようなら、カテーテルの曲げを解放し、CSに沿わせる。カテーテルを進める際には軽くクロックワイズにトルクをかけながら進めると良い。LAOで4時以降はカテーテルをさらにクロックワイズにひねり、CSカテーテルのカーブをCSのカーブに沿わせるように反転させ進める。
 ポイント:

  • カテーテルを右房から直接CSに挿入しようとすると、tendon of Todaroに阻まれることが多いので、必ず右室からアプローチする。
  • カテーテルが容易にCSに落ち込まない場合には、CS開口部が上下にずれている可能性があるので、房室間溝のシルエットに沿って上下に探す(デフレクタブルカテーテルだと容易)。
  • 開口部にThebesian valveが発達している場合には挿入が容易ではないので、デフレクタブルシースあるいはロングシースを用いて、CS開口部を丹念にマッピングする(前方あるいは上方からのアプローチが奏功することが多い)。
  • どうしても挿入困難な場合には右房造影あるいは左冠動脈造影の遅延像を用いて、CSが右房に開口していることを確認する。左上大静脈遺残に冠静脈洞右房開口部閉鎖が合併することがある。
  • Marshall veinあるいはThe valve of VieussensのためにLAOで4時方向でカテーテルが進まないことがあるので、抵抗がある場合にはカテーテルを若干引き戻し、カテーテルをひねる、あるいは少し曲げて、違ったアプローチで再度進める。
  • CSは静脈であり、容易に解離・破れるので慎重に進める。
  • Marshall VeinあるいはLateral Veinに迷入することがあるので、留置後に記録される電位を確認し、必要であれば本幹を選択しなおす。

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